ドイツで見えたVA/VEの未来
Value Management、価値分析、AI活用の現在地
2026年5月、ドイツ・Wuppertalで開催された「VDI Wertanalyse/Value Management 2026」に参加し、VA/VEに特化した言語モデルの研究開発について発表する機会を得た。
今回の参加を通じて強く感じたのは、欧州、特にドイツにおけるVA/VEが、単なるコスト削減手法ではなく、Value Managementという経営管理の方法論として発展しているということである。
また、AI活用に対する考え方も非常に実践的であった。AIを単なる新しいツールとして導入するのではなく、すでに蓄積されたデータ、標準化されたプロセス、価値分析、コスト構造、製品戦略と接続しながら、どのように価値創造へ結びつけるかという議論が行われていた。
本記事では、VDI Wertanalyse/Value Management 2026への参加報告を通じて、欧州VA/VEの現在地、ドイツにおけるAI活用への姿勢、そして日本VEが今後進むべき方向について整理したい。
【目次】
1. VDI Wertanalyse/Value Management 2026とは
2. Wuppertalという開催地
3. 欧州企業のVA/VE実践から見えたもの
4. 機能分析はVA/VEの中核である
5. ドイツ・欧州におけるAI活用への姿勢
6. VA/VE特化型LLMに関する筆者発表
7. 欧州のValue Managementと、日本VEの課題
8. おわりに
1. VDI Wertanalyse/Value Management 2026とは
2. Wuppertalという開催地
3. 欧州企業のVA/VE実践から見えたもの
4. 機能分析はVA/VEの中核である
5. ドイツ・欧州におけるAI活用への姿勢
6. VA/VE特化型LLMに関する筆者発表
7. 欧州のValue Managementと、日本VEの課題
8. おわりに
1. VDI Wertanalyse/Value Management 2026とは
VDI Wertanalyse/Value Management 2026は、2026年5月5日から5月6日にかけて、ドイツ・WuppertalにあるK. A. Schmersal社のtec.nicum academyで開催された。
本年はドイツ国内大会としての性格が強く、参加者は約50名であった。ドイツ以外からは、アメリカ、オーストリア、オランダ、日本などから参加があり、日本からの参加者は筆者1名のみであった。また、アジア圏からの発表者としても筆者1名であった。
大会全体はドイツ語での発表が中心であり、同時通訳は用意されていなかった。その意味では、日本人参加者にとって決して容易な環境ではなかった。しかし、参加者の多くが企業内でVA/VEやValue Managementを実践している専門家であり、一つひとつの発表や休憩時間の対話は非常に密度の高いものだった。
規模だけを見れば大きな国際大会ではない。しかし、実務家、企業経営者、コンサルタント、標準化に関わる専門家が集まる、極めて濃密な専門家コミュニティであった。
2. Wuppertalという開催地
開催地であるWuppertalは、1929年に複数の独立した都市が合併してできた街である。中心となったのはElberfeldとBarmenであり、ほかにVohwinkel、Ronsdorf、Cronenbergなどの地域も含まれる。
これらの地域は、19世紀には繊維産業を中心に栄えた重要な工業都市群であり、「ドイツのマンチェスター」とも呼ばれていた。Wuppertalという名前自体も、Wupper川の谷、すなわち「Wupperの谷」を意味する。
また、Wuppertalの象徴である懸垂式モノレールSchwebebahnは、1901年から運行している。都市名としてのWuppertalが成立する前から存在していたこのモノレールは、街の産業史と技術文化を象徴する存在である。
工業化の歴史を持つこの街で、Value Management、機能分析、AI活用の未来について議論できたことは、非常に象徴的であった。
3. 欧州企業のVA/VE実践から見えたもの
今回のカンファレンスでは、複数の企業から実践的なVA/VE事例が紹介された。印象的だったのは、いずれの事例も単なるコストダウン活動としてではなく、顧客価値、機能、組織変革、グローバルプロセス、製品戦略と結びつけて語られていた点である。
3.1 Innomotics:設計済み製品に対する機能・コスト分析
Innomotics社からは、コンバータ用の電力モジュールに対するVA/VE適用事例が紹介された。
対象製品は、すでに設計が相当程度作り込まれた段階にあった。しかし、顧客要求の重み付け、55機能の構造化、function cost analysisを通じて、現行プロトタイプ段階で11%、Second Sourceや長期施策まで含めると最大15%のコスト削減が見込めるとの結果が示された。
特に印象的だったのは、ドイツ、中国、インドにまたがる国際チームで協業し、162件のアイデアから28件の評価対象案を絞り込み、施策パッケージへ落とし込んでいた点である。
この事例は、設計が進んだ段階であっても、機能とコストを再接続することで改善余地は見えることを示していた。
3.2 Supfina:40%削減を可能にした機能の再定義
Supfina Grieshaber社からは、製造コスト40%削減という、社内では当初「考えられない」とされた目標を、機能の再定義を通じて達成した事例が発表された。
重量約90kgの加工ユニットを機能的に再設計し、約13kgへと軽量化した。さらに、納期も12か月から9か月へ短縮したという。
この発表で重要だったのは、VA/VEを単なるコスト削減手法ではなく、「リーダーシップ、イノベーション、変革のための経営手段」として位置づけていた点である。
これは、欧州におけるVA/VEの発展方向を象徴する内容であった。コストを下げることが目的なのではなく、機能を問い直し、事業や組織の前提を変えることで、結果として大きな価値向上を実現する。そのような考え方が明確に示されていた。
3.3 KOSTAL:グローバルVA/VEプロセスの標準化
KOSTAL Automobil Elektrik社からは、米州、中国、欧州にまたがるVA/VEプロセスのグローバル調和事例が紹介された。
「One for all」をスローガンに、80%は世界共通の標準プロセス、20%は地域ごとの柔軟性を残すアプローチがとられていた。当初0.9%だった購買額に対する削減目標を1.05%へ引き上げたうえで、実績として1.5%を達成したとの報告であった。
また、社内向けのベスト、動画、ポッドキャスト、体験型イベントなどを組み合わせ、グローバルな「我々」という意識を醸成していた点も印象的であった。
VA/VEは手法を導入するだけでは定着しない。組織文化として設計し、共通言語として浸透させる必要がある。この点は、日本企業がVA/VEを再活性化するうえでも重要な示唆である。
4. 機能分析はVA/VEの中核である
2日目には、TRILUX社のChristoph Ruf氏から、新たに改訂されたVDI 2803 Blatt 1、すなわち機能分析に関する発表が行われた。
そこで示されたメッセージは明快であった。
「機能分析なくして真のVA/VEは成立しない。」
発表では、ドリルを例に、機能表現の違いが解決空間をどれほど変えるかが説明された。
たとえば、「ドリルを回転させる」と表現すれば、解決策はドリルや回転機構の範囲に閉じやすい。「穴を開ける」と表現すれば少し広がる。さらに「穴を生み出す」と抽象化すれば、レーザー、ウォータージェット、打抜き、フライス、エッチング、放電加工など、まったく異なる解決空間が開かれる。
この考え方は、VA/VEの本質そのものである。ものや構造から出発するのではなく、機能から出発する。手段ではなく目的を問い直す。現在の形にとらわれず、達成すべき働きを抽象化する。
今回のVDI 2803 Blatt 1の改訂は、用語、手順、機能構造、function cost analysisの考え方を一貫した形で結び直すものとして紹介された。これは、ドイツ・欧州において、VA/VEが標準規格としても継続的に見直され、発展していることを示している。
日本のVEは、導入期に整備された体系を大切に継承してきた。一方で、経営環境やデジタル技術の変化に応じて、方法論そのものを再定義し、標準として更新していく動きは十分とはいえない。
この点で、標準規格を改訂しながら方法論を発展させていくドイツ・欧州の姿勢は、日本VEにとって大きな学びである。
5. ドイツ・欧州におけるAI活用への姿勢
今回のカンファレンスで強く印象に残ったことの一つは、ドイツ・欧州におけるAI活用への考え方である。
日本でもAI活用は大きなテーマになっている。しかし、多くの場合、議論は「どのAIツールを使うか」「RAGを導入するか」「生成AIでどの業務を効率化するか」といった、比較的ツール寄りの話になりやすい。
一方、今回のVDIカンファレンスで語られていたAI活用は、より上流の問題意識に基づくものだった。すなわち、AIを導入する前に、対象となる業務や製品をどのように分析し、どの機能を可視化し、どこに価値創造や無駄が存在するのかを明らかにする必要がある、という考え方である。
5.1 「データ化の次」にあるAI活用
パネルディスカッションの中で、非常に印象に残った発言があった。
「我々はデータ化は済んだ。次は、それをどう活用していくかだ。」
この言葉は、ドイツ・欧州におけるAI活用の現在地をよく表しているように感じた。
もちろん、ドイツがデジタル化のすべての領域で常に先進的である、という単純な見方はできない。行政や社会インフラのデジタル化には課題もある。しかし、製造業、エンジニアリング、標準化、産業データの領域においては、Industry 4.0に代表されるように、業務や製品をデータとして捉え、構造化し、活用しようとする蓄積がある。
そのため、AI活用の議論も、単に「どのAIツールを使うか」という段階にとどまっていない。むしろ、すでに蓄積された製品データ、部品データ、購買データ、工程データ、コストデータを、どのように意思決定や価値創造に結びつけるかという、より実践的な段階に入っているように感じられた。
これは、筆者自身が進めているVA/VE特化型LLMの研究にとっても重要な示唆であった。
AIに単に改善案を出させるだけでは、VA/VEの実務には十分ではない。必要なのは、対象製品やサービスを機能として捉え、機能、コスト、制約条件、顧客価値、代替案を構造化し、人間の専門家がより良い判断を行えるように支援することである。
その意味で、AI活用の前提には、対象領域の知識と業務プロセスが、AIで扱える形に整理されている必要がある。今回のカンファレンスで語られていた「データ化の次に、それをどう活用するか」という問題意識は、VA/VE特化型LLMの研究を進めるうえでも、非常に大きな学びとなった。
5.2 まず分析、次に最適化、最後に自動化
Value Coaching MarchthalerのDr.-Ing. Jörg Marchthaler氏からは、AI導入を持続可能な形で成功させるためにVA/VEをどう活用するかについて発表があった。
多くの企業がAIプロジェクトで成果を上げられない理由として、「ツールから出発し、解くべき課題から出発していない」点が挙げられていた。そして、「まず分析、次に最適化、最後に自動化」という順序の重要性が強調された。
これは、非常に本質的な指摘である。
AIを導入すれば、自動的に業務が改善されるわけではない。業務や製品の機能が明確でなければ、どこにAIを適用すべきかも分からない。ボトルネックや重複作業が見えていなければ、AIは既存の非効率を高速化するだけになってしまう可能性もある。
VA/VEは、プロセスと機能を可視化し、ボトルネックや価値の低い領域を明らかにする。その意味で、AI導入の前段階として、VA/VEやValue Managementが果たす役割は大きい。
5.3 AIは人間の判断を置き換えるのではない
Siemens Mobility社とPartSpace社からは、購買、エンジニアリングデータ、AIを共通プラットフォーム上で統合し、コスト管理を高度化する取り組みが紹介された。
長年蓄積された膨大な部品ポートフォリオから、類似部品や同一部品をAIで識別し、Should-Cost指標やクラスタリングを通じて、交渉や設計判断の出発点となる透明性を確保するという内容であった。
ここで印象的だったのは、「AIは交渉そのものを置き換えるのではなく、人間がどこに目を向けるべきかを示す」という考え方である。
これは、筆者の研究テーマとも深く関係している。AIは専門家の判断を置き換える存在ではない。むしろ、専門家がより良い判断を行うために、膨大な情報を整理し、構造化し、着目すべき論点を提示する存在である。
AIを意思決定者としてではなく、意思決定の質を高める支援者として位置づける。この考え方は、VA/VEにおけるHuman-in-the-loopの実践モデルと強く重なる。
6. VA/VE特化型LLMに関する筆者発表
今回、筆者は「Development and Path to Practical Implementation of VA/VE Domain-Specific Large Language Model — Towards AI-Assisted Functional Analysis and Method Integration」と題して、VA/VEに特化した言語モデルの研究開発について発表した。
発表前から、AIをVA/VE分野に特化させて適用するというテーマの新規性に関心が集まっていた。
筆者の問題意識は、汎用的な生成AIにVA/VEの答えを出させることではない。VA/VEの思考プロセスそのものをAIが支援できるようにすることにある。
特に、機能定義、機能整理、機能評価、アイデア発想、代替案作成といったプロセスにおいて、人間の専門家がより良い判断を行うための支援環境を構築することが目的である。
6.1 なぜ汎用AIだけでは不十分なのか
生成AIは非常に有用である。しかし、VA/VEのような体系的手法にそのまま適用するには課題がある。
VA/VEでは、単にアイデアを出すだけでは不十分である。対象の機能を定義し、目的と手段の関係を整理し、機能別コストを分析し、価値の低い領域を見つけ、代替案を作成し、技術性と経済性の両面から評価する必要がある。
つまり、VA/VEには明確な思考プロセスと方法論がある。
汎用AIは広い知識を持つ一方で、VA/VE固有の用語、手順、判断基準、機能表現、企業内の実践知を十分に反映できるとは限らない。そのため、Prompt Engineering、RAG、Fine-tuningをどのように使い分けるかが重要になる。
筆者は、企業固有のVA/VE知見を組み込み、機密性を保ちながらオンプレミスまたは閉域環境で運用できる、VA/VE特化型の言語モデルに可能性があると考えている。
6.2 Human-in-the-loopによる実践支援モデル
VA/VEにおいて、最終的な機能評価や意思決定は人間が担うべきである。
AIは、事前分析、情報整理、機能定義の候補生成、機能構造のたたき台作成、過去知見の検索、代替案の整理などを支援する。しかし、何が顧客価値であり、どの機能を重視すべきか、どの代替案を採用すべきかを判断するのは、人間の専門家である。
このHuman-in-the-loopの考え方により、ガバナンスやアカウンタビリティを確保しつつ、専門家の判断とAIの計算力を組み合わせることができる。
AIがVA/VEを置き換えるのではない。AIによって、VA/VE専門家がより深く、より速く、より広い視野で検討できるようにする。それが筆者の研究の基本的な立場である。
6.3 欧州・米国VA/VE関係者からの反応
発表後、複数の参加者から、VA/VEに特化したAIを自社で構築・保有できるという点に関心が寄せられた。
特に、機密性を保ちながらオンプレミスで運用できること、巨大な予算を投じずに自社固有のVA/VE知見を組み込めること、そしてAIを人間の判断支援として位置づけることに対して、実践的かつ現実的なモデルであるとの評価があった。
また、Prompt Engineering、RAG、Fine-tuningの違いと、Fine-tuningによるVA/VE特化型言語モデルが必要となる理由を整理した点についても、一般的なAI活用との差異が分かりやすかったとの意見をいただいた。
特に、SAVE Internationalの関係者からは、「非常に面白く新規性の高い方法論であり、米国のValue SummitでもVA/VE専門家コミュニティに共有してほしい」との依頼をいただいた。
日本発のVA/VE関連研究を国際的に発信していくうえで、大変意義深い機会となった。
6.4 自身の研究発展への示唆
今回の発表は、単に自身の研究を紹介する場ではなかった。むしろ、ドイツ・欧州の実務家がAIをどのように捉え、Value Managementとどのように接続しようとしているのかを直接学ぶ機会でもあった。
特に印象的だったのは、AIを単なる自動化ツールとして扱うのではなく、業務や製品を機能として捉え、価値創造プロセスを可視化したうえで、どこにAIを適用すべきかを考える姿勢である。
これは、筆者が進めているVA/VE特化型LLMの研究にとっても重要な示唆であった。
AIに答えを出させるのではなく、VA/VEの思考プロセスを支援し、人間の専門家がより良い判断を行うための構造化を支援する。この方向性は、今回のカンファレンスで示された欧州の議論とも強く響き合うものであった。
今回得られた学びは、大きく4つある。
1. AI活用は、ツール導入ではなく、価値創造プロセスの再設計として考えるべきである。
2. AIを有効に使うためには、事前に業務や製品を機能として分析し、目的、手段、制約条件、コストを構造化しておく必要がある。
3. AIは専門家の判断を置き換えるものではなく、専門家がより良い判断を行うための視野と材料を提供するものである。
4. VA/VE特化型LLMの研究は、単なるAI応用ではなく、Value Managementの方法論をAI時代に拡張する取り組みとして位置づけるべきである。
7. 欧州のValue Managementと、日本VEの課題
今回のVDI Wertanalyse/Value Management 2026で特に印象的だったのは、欧州におけるVA/VEが、単なるコスト削減手法としてではなく、Value Managementという経営管理の方法論として発展している点である。
もちろん、VA/VEがコスト削減手法として理解されがちであることは、日本に限った問題ではない。多くの国や企業において、VA/VEは依然として原価低減、購買改善、製造コスト削減の文脈で語られることが多い。
しかし、欧州、とりわけドイツの議論で特徴的なのは、その限界を認識したうえで、VA/VEを顧客価値、機能、コスト、技術的複雑度、市場ポジション、戦略的整合性を統合的に扱うValue Managementへと拡張しようとしている点である。
実際、今回のカンファレンスでも、Value Managementを製品管理や事業開発と統合し、製品ロードマップやリソース配分といった上流の意思決定に組み込むべきであるという発表があった。これは、VA/VEを単なる改善活動ではなく、経営判断のための方法論として扱う考え方である。
また、ドイツではVDI 2800番台を中心にWertanalyse / Value Managementに関する標準・ガイドラインが整備され、機能分析に関するVDI 2803なども継続的に見直されている。方法論を固定化するのではなく、標準規格として更新しながら発展させていく姿勢は、日本のVEにとっても重要な示唆である。
日本には、長年にわたって蓄積されてきたVEの実践知がある。しかし一方で、導入期に整備された体系を大切に継承してきた反面、経営環境やデジタル技術の変化に応じて、VEをValue Managementとして再定義し、経営管理の中に位置づけ直す動きは十分とはいえない。
日本のVEにおける最大の問題は、現場にVEがないことではない。むしろ現場には多くの実践知がある。問題は、経営層がVEを単なるコスト削減活動ではなく、顧客価値、機能、コスト、資源配分を統合的に扱う経営管理手法として理解していないことである。
その結果、VEは現場改善や原価低減の活動に閉じやすく、製品企画、事業戦略、開発投資、人材育成、さらにはAI活用といった上流の経営課題に接続されにくい。
AI時代において、VEの重要性はむしろ高まっている。なぜなら、AIを有効に活用するためには、対象業務や製品を機能として捉え、目的と手段を整理し、どこに価値があり、どこに無駄があるのかを構造化する必要があるからである。
VA/VEは、AIに置き換えられる古い手法ではない。むしろAI時代において、人間が何を判断し、AIに何を支援させるべきかを設計するための基盤となる方法論である。
日本VEの課題は、手法そのものが古いことではない。問題は、VEを経営の言葉で語り直せていないことである。欧州のValue Managementは、その再定義の方向性を示している。
8. おわりに
今回のVDI Wertanalyse/Value Management 2026を通じて強く感じたのは、VA/VEは決して過去の管理技術ではなく、AI時代にこそ再評価されるべき思考体系であるということである。
欧州、特にドイツでは、VA/VEがValue Managementとして経営管理手法へ発展している。その発展は、標準規格の更新、製品戦略への接続、組織変革、AI活用の議論に表れている。
さらに、産業データの蓄積、標準化、プロセス可視化を前提に、AIを実践適用する段階へ議論が進んでいるように感じられた。
その中で、筆者のVA/VE特化型LLM研究は、単なるAI応用ではなく、Value Managementの知識体系をAI時代に拡張する取り組みとして位置づけられる。
重要なのは、AIにVA/VEを置き換えさせることではない。VA/VEが持つ機能本位、価値思考、チームによる意思決定の枠組みを、AIとどのように統合していくかである。
日本VEが今後進むべき方向も、コスト削減に閉じた活動ではなく、経営管理、データ活用、AI活用と接続されたValue Managementへの発展である。
日本には、長年にわたって培われたVEの実践知がある。その知見を、現場改善の枠に閉じ込めるのではなく、経営層が理解し、経営管理の方法論として位置づけ直すことができれば、AI時代においても大きな価値を持つはずである。
今回のWuppertalでの経験は、その方向性を確認する重要な機会となった。そして、VA/VE特化型LLMの研究を、国際的なValue Managementの議論と接続しながら発展させていくための、大きな一歩になったと感じている。